教えを聞くべからず
はてさて、私はどうやったらヴァイオリンがもっとよく弾けるようになるのかと考えていた。
――そうだ、指導霊を呼んでみよう。
「誰か、指導してください。」
するとすぐに白銀の老人風の男が現れた。
「風」というのは、ゆったりしたその佇まいから老人のように感じたから。
顔がよく見えない。けど白い髭をたくわえていそうな気がする。
“よいか、さっそく教えをひとつ。
音を鳴らすべからず。
曲を奏でるべからず。
リズムを取るべからず。”
「そうか!」
――思わず腑に落ちてしまった。めちゃくちゃだが、何故か頭のモヤがすーっと晴れるのがわかった。
“音ならぬ音に耳をすませ。
曲ならぬ曲と手を取り合え。
大いなるリズムに身を委ねよ。 ”
「なるほど……一度聴かせていただけませんか?」
“ああ、良いとも。”
老人風の佇まいから、ゆったり弾くもんだと構えていたが……
………速い。いきなり速い。嵐のようなボーイングに呆気に取られている。
これはまさに、風の強いところに置かれた風車。
“あぁ、次の生徒が待っている。
わし忙しいんだよね。じゃね!”
ぴゅ~と戻っていくお茶目な後ろ姿。
――帰っちゃったよ。
はてさて、どうやって弾けばいいんだ?
眉間に皺を寄せていると、
老人風の男が急いで戻ってきた。
“一番大事なことをいい忘れた。
教えを聞くべからず。
教えの奥にある私の調べを受け取ってくれ。”